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今回は、秋の季語と俳句のお話をします。
季語には7つのグループがあって、その中に「人事」というテーマがあります。
(7つというのは、時候・天文・地理・人事・行事・動物・植物です。)
「人事」は、主に秋に行われる行事と、秋らしい生活の中の出来事を指す季語です。
伝統的な行事や、秋の収穫時の農業に関する季語から、現代になって生まれものまで、いろんな季語がありますよ。
自分で俳句を作るときは、身近なものを題材にすると、作りやすいし気持ちが込められますね。
今回は、そんな秋の生活の中の季語と、代表的な俳句を、お伝えします。
秋の季語「人事」(生活)
「生活」の季語は、秋の収穫に関するものが多く、古くて見慣れない言葉が多いなーと感じます。自分で作るときは、七夕とか秋分の日、体育の日など、身近なものを題材にすると書きやすいですね。
「行事」の季語は、たくさんあります!
地方の秋祭りや、秋に行われる神社の行事がすべて含まれますよ。
そして「○○忌」という文人や芸術家などの忌日も多いです。
これらも、季語になりますよ。
★生活の季語
新酒・濁酒・猿酒・古酒・新米・夜食・松茸飯・栗飯・柚味噌・干柿・菊膾(きくなます)・とろろ汁・衣被(きぬかつぎ)・新蕎麦・新豆腐・芋茎(ずゐき)
七夕・硯洗・梶の葉・終戦記念日・震災忌・敬老の日・秋分の日・運動会・体育の日・夜学・赤い羽根・文化の日・秋祭・秋遍・ 逆の峰入り・べったら市・鬼灯市・草市・盆支度・迎鐘・盂蘭盆・門火・墓参・燈籠・流燈・精霊舟・大文字の火・重陽・菊供・養秋の燈・秋の蚊帳・秋簾・秋・ 扇置く・菊枕・行水名・ 障子洗ふ・障子貼る・風炉の名残・冬支度・秋耕・案山子(かかし)・鳴子・稲刈 稲架・稲扱(いねこき)・籾磨(もみすり)・豊年・凶作 新藁 藁塚 夜なべ 砧(きぬた) 新渋 竹伐る(たけきる) 櫨ちぎり 種採 菜種蒔く 豌豆植う 蚕豆植う 大根蒔く 牡丹植う 秋の球根植う・薬掘る・葛掘る・牛蒡引・萩刈る・萱刈・ 蘆火・高はご・囮(おとり)・下り簗・鰯引・踊・相撲・盆狂言・地芝居・月見・月見豆・ 菊人形・虫売・虫籠・茸狩・紅葉狩
★お祭り・行事の季語
時代祭・紅葉の賀・伏見三栖祭・ロザリオ祭・城南祭・淀祭・大津祭・岡崎祭・伊勢御遷宮・岩倉祭・太秦の牛祭・恵比須講・鞍馬の火祭・芸術祭・
穴織祭・阿濃津八幡祭・粟田神社祭・石上祭・石清水祭・大神神社祭・秋の御灯・御取越・御命講・御命講・神嘗祭・菊の着綿・伎芸天慶讃法要・貴船の狭小神輿・御難の餅・木幡祭・金刀比羅祭・西院祭・正倉院曝涼・諸聖人祭・白川祭・新宮御船祭・住吉の神送・鳴瀧祭・温め酒・野の宮の別 ・八幡花の頭・靖国神社秋季大祭
★忌日の季語
去来忌・広重忌・西鶴忌・若冲忌・宣長忌・源義忌・夢窓忌・紅葉忌・千代尼忌・鳥羽僧正忌・露月忌・山頭火忌・子規忌・百閒忌
秋の「人事(生活・行事)」の俳句
秋は、収穫の季節です。
そして、秋祭りの季節ですね~。
季語にもそれがよく表れていて、行事やお祭りの季語がたくさんあります。
今回は、松尾芭蕉と与謝蕪村、そして正岡子規の俳句を、合わせて10個ご紹介します。
(1)松尾芭蕉の秋の俳句
たなばたや 穐(あき)をさだむる 夜のはじめ
【季語】たなばた
冬しらぬ 宿や籾摺る 音あられ
【季語】籾摺る(もみする)
早稲(わせ)の香や 分け入る右は 有磯海
【季語】 早稲(わせ)
数ならぬ 身とな思ひそ 玉祭
【季語】 玉祭
「玉祭」というのは「魂祀り」、つまりお盆に亡くなった人の霊を慰めることをいいます。
松尾芭蕉は、知られていないことも多いのですが、ただ一人愛した女性がいたといわれるんですよ。
それが、寿貞尼という女性で、この俳句は、彼女が亡くなったと聞いて、芭蕉が詠んだものです。
寿貞尼が江戸の芭蕉庵で亡くなったとき、芭蕉は京都・嵯峨の向井去来の落柿舎にいました。
彼女のことは、ほとんど分かっていないのですが、芭蕉と同じ伊賀上野出身で、幼なじみだったともいわれます。
芭蕉が彼女を愛していたことは、『松村猪兵衛宛真蹟書簡』にも書かれていて、この句からも伝わります。
「数に入らぬようなわが身だなんて、思ってくれるな」と言って、寿貞尼の死を嘆き悲しんでいるのです。
松尾芭蕉のよく知られた俳句は、こちらの記事にまとめています。
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松尾芭蕉の俳句~静けさや・五月雨を~代表作20句を紹介します
(2)与謝蕪村の秋の俳句
さればこそ 賢者は富まず 敗荷
【季語】敗荷
昔から賢者は貧乏人だと言われているけれど、まったくその通りだと言っています。
賢人の住む庭の様子を「敗荷」と表しています。
蓮が破れはじめて、みすぼらしいありさまになっている庭の様子を言い表していますよ。
温泉の底に我が足見ゆるけさの秋
【季語】けさの秋
与謝蕪村は、よく旅に出ていました。
そんな、立秋の朝、温泉につかっていると、自分の足がほっそり白く見えるなと思ったのですね。
(3)正岡子規の秋の俳句
七夕の 橋やくづれて なく鴉
【季語】七夕
「七夕伝説」を踏まえたロマンチックな一句です。
織姫と彦星は、年に一度七夕の日にだけ会う事ができるようになりました。
2人がこの日に会えるように助けのは、カササギ(鵲)とカラス(鴉)だったんですよ~。
飛ぶことができるカササギとカラスは、橋がなくて会えずに泣き暮らしていた織姫と彦星から悲しい事情を聞いて、手助けしようと決心したのです
そして、1年に1回、七夕の日に、カササギとカラスは、天までのぼって互いに頭と頭をくっつけ、銀河系に橋を架けたのです。
そうして、織姫と彦星は、会えるようになったのでした。
これは、中国や韓国に残る七夕のお話です。
日本昔話の七夕の話とは、ちょっと違いますね。
でも、カササギが七夕伝説に登場するのは、万葉集や古今集にも出てくるので、当時の日本人は知っていたのですよ。↓
「かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける」
中納言(大伴)家持(百人一首6番)『新古今集』
稲刈りて 地藏に化け 狸かな
【季語】稲刈
雨の菊 酒酌む門の 馬もなし
【季語】菊酒
烏帽子着て 送り火たくや 白拍子
【季語 送り火
おわりに
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
秋は、俳句や和歌で一番たくさん詠まれている季節ですが、「人事」は、どこかのお祭りなど、固有名詞の季語が多いですね。
今回は、松尾芭蕉・与謝蕪村、そして、明治の俳人・正岡子規の俳句にしぼって、お伝えしました。
句作の参考になれば、うれしいです。
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