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かつて日本の田舎では、家屋のそばに必ずといってよいほどあった柿の木。
柿と日本人のつながりはとっても古く、なんと縄文時代の化石の中からも柿の種が発見されています。
今日は、秋の風物詩の1つでもある身近な果物「柿」の俳句をご紹介します。
目次
季語としての「柿」いろいろ
柿は昔から庶民の身近な果物だったので、熟れ具合や加工の仕方など「季語」も豊富なのです。
渋柿・干し柿・吊るし柿・樽柿干・ころ柿・甘柿 きざわし(木淡)・こねり(木練)・熟柿(じゅくし)・木守……
これらはすべて、柿の季語です。
(1)松尾芭蕉の「柿」の俳句
まずは、江戸時代の俳諧師から・・・
柿の木は江戸の人々にとっても身近なものでした。甘柿だけでなく渋柿を干し柿にして冬の甘味として楽しむこともありましたよ。
田舎にはどこの家にも柿の木があったと、松尾芭蕉が俳句で伝えています。
里古りて 柿の木持たぬ 家もなし
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「古里伊賀は古い歴史のある所だ。柿の木のない家はない。(家々の柿がたわわに実っている)」
川かぜや 薄柿着たる 夕すずみ
(2)服部嵐雪の「柿」の俳句
服部嵐雪(はっとりらんせつ)は芭蕉の弟子で、芭蕉の弟子の中でも特に優れた10人「蕉門十哲」の1人に数えられる俳諧師です。
柿とは関係ありませんが、 すごく有名なのでこの句は知っておくと素敵ですよ。
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梅一輪 一輪ほどの 暖かさ
「柿」の俳句を4つご紹介します。
猶石にしぶ 柿をぬる 翁かな
ひとり旅 しぶ柿くうた 顔は誰
串柿の 袖を引しか 雛の中
木がらしに 梢の柿の 名残かな
(3)正岡子規の「柿」の俳句
「柿」の俳句と言えばコレというほど有名なこの俳句は、正岡子規のものです。
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柿食へば 鐘が鳴るなり 法隆寺
正岡子規は柿が大好物で、ついでに奈良も好きでした。
大好きな物を題材にした俳句は、特にその人の心情がよく表れるなと思えますね。次の2句も奈良と柿の俳句です。
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奈良の宿 御所柿くへば 鹿が鳴く
渋柿や あら壁つづく 奈良の町
樽柿を 握るところを 写生哉
渋柿は 渋にとられて 秋寒し
渋柿は 馬鹿の薬に なるまいか
三千の 俳句を閲し 柿二つ
宿取りて 淋しき宵や 柿を喰ふ
初なりの 柿を仏に そなへけり
正岡子規は柿の旬の時期には、一度に5個も6個も食べるほど、柿が好きでした。
でも、晩年肺結核で体が弱ったとき、食べたいのに食べられない状態になっていきます。
柿が食べられない悲しさというより、いろんな事が思い通りにできなくなったもどかしさ、悲しさが次の3句から伝わります。
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胃を病んで 柿をくはれぬ いさめ哉
癒えんとして 柿くはれぬぞ 小淋しき
柿くふも 今年ばかりと 思ひけり
(4)水原秋櫻子の「柿」の俳句
水原秋櫻子(しゅうおうし)は、本名は水原豊という男性の俳人です。
高浜虚子に俳句を学んでいましたが、後に離反しました。
ホトトギス派の代表といわれた「ホトトギス四S(シイエス)」の1人です。「ホトトギス四S」は、水原秋櫻子、山口誓子、阿波野青畝、高野素十の4人ですよ。
秋深く 歯にしむ柿と 思へども
風雲の 秩父の柿は 皆尖る
雲脱ぐは 有明山か 柿赤し
(5)山口誓子の「柿」の俳句
山口誓子(せいし)は京都の俳人で、本名は山口新比古(ちかひこ)という男性です。
ホトトギス派を代表する「ホトトギス四S(シイエス)」の1人でしたが、後に水原秋桜子についてホトトギスを離脱しました。
「ホトトギス四S」は、水原秋櫻子、山口誓子、阿波野青畝、高野素十です。
柿を食ふ 君の音また こりこりと
これを見て 美濃の豊かさ 富有柿
君が食ひ わが食ひ柿 の音つゞく
柿山に 見えざる柿の 方多し
柿山の 墓山ここに 永眠す
(6)飯田蛇笏の「柿」の俳句
飯田蛇笏(いいだだこつ)は山梨県出身の俳人で、本名は飯田武治といいます。同じく俳人の飯田龍太は蛇笏の息子です。
雲霧や 嶽の古道 柿熟す
山の霧 罩めたる柿の 雫かな
山柿の ひと葉もとめず 雲の中
山柿の 雨に雲濃く なるばかり
(7)山口青邨の「柿」の俳句
山口青邨(せいそん)は岩手県出身の俳人で本名は吉朗といいます。本職は鉱山学者で、師匠は高浜虚子でした。
ぽきぽきと 柿の剪定 午后もつづく
とがりたる ここらの柿は 良寛の柿
とりし柿 机に三日月 柿の木に
干柿の 金殿玉楼と いふべけれ
柿あまた 籠に盛りたる かがやきに
柿たわわ 烏見おろし 人見あげ
柿に来る 鵯の歓喜の 虚空より
柿のせて わが手御仏の 手のごとく
(8)夏目漱石の「柿」の俳句
夏目漱石は正岡子規の友人で、子規から俳句を学んでいました。
「こころ」「吾輩は猫である」など、今もベストセラー作家の漱石は、文豪として知られますが、実は生涯に約2400句もの俳句を残しています。
たくさん詠んでいますね。
柿落ちて うたゝ短き 日となりぬ
樽柿の 渋き昔しを 忘るるな
この里や 柿渋からず 夫子(ふうし)住む
渋柿も 熟れて王維の 詩集哉
渋柿や あかの他人で あるからは
渋柿や 長者と見えて 岡の家
能も無き 渋柿共や 門の内
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