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こんにちは。
 
 
「夏らしい短歌」を、近現代の5人の有名歌人、北原白秋、若山牧水、石川啄木、与謝野晶子、正岡子規の作品から選んで紹介します。
 
 
「短歌」と「和歌」は、どこがどう違と思われますか?
 
 
それは⇒★こちらに詳しく書きましたが、ざっくりとらえると、明治以前の昔に詠まれたものが和歌、明治以降の作品が短歌となりますよ。

 
 

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夏の短歌

 
 
一般的に、明治時代以前のものを「和歌」、明治時代以降のものを「短歌」と呼ぶことが多いです。
 
 
今回は、明治時代以降に活躍した5人の歌人、の夏の短歌をご紹介します。

 
 

(1)北原白秋の夏の短歌

 

 
北原白秋は、日本を代表する詩人で歌人、そして多くの童謡の歌詞を書いた童謡作家でもあります。「ゆりかごの歌」「あめふり」など、小学校の音楽の教科書にのった歌もたくさんありますよ。
 
 
彼は早稲田大学在学中に若山牧水と知り合い、1906年ごろから、与謝野鉄幹・晶子、石川啄木らと交友を結びました。雑誌「明星」で詩を発表して、広く認められるようになりました。
 
 
・あおによし 奈良の都の藤若葉 けふ新たなり我は空行く
 
・朝山は 風しげけれや夏鳥の 百鳥のこゑの飛びみだれつつ
 
・昼ながら 幽かに光る蛍一つ 孟宗の藪を出でて消えたり
 
・驚きて わが身も光るばかりかな 大きなる薔薇の花照りかへる
 
・さしむかひ 二人暮れゆく夏の日の かはたれの空に桐の匂へる
 
・若葉して かかりみじかき藤の房 清水ながるる田のへりゆけば
 
・爆竹の 花火はぜちる柳かげ 水のながれは行きてかへらず
 
・真夏空 絶えず湧き来るいつくしき 白木綿雲の中わくるなり
 
・君と見て 一期の別れする時も ダリヤは紅しダリヤは紅し

 
【鑑賞】
 
恋人と別れて失意の中の白秋の目に、ダリアだけが色鮮やかに咲いている様子が切ないです。
 
ダリアの紅色こそが、二人の燃え上がる恋の色だったのかもしれませんね。美しい歌です。
 

 
 

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(2)若山牧水の夏の短歌

 

 
若山牧水は、1904年に早稲田大学に入学して北原白秋と知り合いました。旅を愛した歌人として知られています。
 
 
牧水の短歌は、切なくさびしげな情感と美しい情景が相まった作品が多く、すごく好きです。
 
 
夏の植物などを含む短歌を紹介します。
 
 
・くもり日に 啼きやまぬ蝉と我が心 語らふ如くおとろへてをり
 
・けふもまた 明けにけるかな軒端なる 椋の青葉に風は見えつつ
 
・夏山の 風のさびしさ百合の花 さがしてのぼる前にうしろに
 
・夏草の 茂りの上にあらはれて 風になびける山百合の花
 
・うろこ雲 空にながれてしらじらと 輝けるかげの夏の夜の月
 
・天の河 さやけく澄みぬ夜ふけて さしのぼる月のかげはみえつつ

 
 
「天の河」は、俳句の季語では「秋」ですが、現代の感覚では夏なので選びました。

 
 

(3)石川啄木の夏の短歌

 

 
生き方のクズっぷりがヤバイ石川啄木ですが、和歌の才能は確かだと思います。(←好きなだけですが)
 
 
「一握の砂」の「はたらけどはたらけど 猶(なお)わが生活楽にならざり ぢっと手を見る」が有名ですね。
 
 
でも、彼は実際にはあまり本気で働くことはなく、借金しまくって踏み倒しまくって奥さんを裏切り続けています。それでも、奥さんはイケメンの啄木が好きだったみたいです。
 
 
雑誌「明星」に投稿していたことから与謝野鉄幹・晶子夫妻や北原白秋ら歌人と、また森鴎外や夏目漱石など小説家とも広く交友関係にありました。
 
 
26歳で肺結核で亡くなったとき、友人の若山牧水に看取られています。
 
 
・いつしかに 夏となれりけり やみあがりの目に こころよき雨の明るさ!
 
・わが庭の 白き躑躅(つつじ)を薄月の 夜に折りゆきしことな忘れそ

 
 

(4)与謝野晶子の夏の短歌

 

 
与謝野晶子は、本名を「志よう」(しょう)という大阪生まれの歌人です。
 
 
彼女は駄菓子屋さんの家に生まれたのですが、兄の影響で、尾崎紅葉などの小説に興味を持つようになりました。
 
 
20歳ごろになると、短歌を雑誌に投稿するようになり、大阪で開かれた歌会で夫となる与謝野鉄幹(てっかん)と出会い一目ぼれしています。
 
 
当時、鉄幹には妻子がいたのですが、1901年に略奪愛で奪い取り、その年に代表作「みだれ髪」を出版しました。
 
 
とにかく、鉄幹が大好きだったらしく、官能的な短歌をたくさん残しています。
 
 
・初夏や 吹くもあほるも扇より 勝らぬ風のにくからぬかな
 
・夏の風 山よりきたり三百の牧の 若馬耳ふかれけり
 
・うす色の 牡丹の花のちるけはひ 身に覚えつつ文かくわれは
 
・薔薇の花 今や終の近づきて 限りも知らず甘き香を吐く
 
・夏まつり よき帯むすび舞姫に 似しやを思ふ日のうれしさよ
 
・夏の花 みな水晶にならむとす かはたれ時の夕立の中
 
・朝顔は わがありし日の姿より 少しさびしき水色に咲く
 
・天の川 白き夜ぞらにかひな上げ ふれて涼しくなりし手のひら

 
 

(5)正岡子規の夏の短歌

 

 
近現代俳句・短歌を確立したといわれる正岡子規は、生涯にたくさの短歌を残しました。
 
 
彼はアララギ派の歌人で、上に紹介した歌人たちとも交流がありました。また、夏目漱石と親友だったこともよく知られています。
 
 
子規についてはこちらをどうぞ⇒正岡子規はこんな人♪
 

 
・夕立の はるる跡より月もりて 叉色かふる紫陽花の花
 
・たまたまに 窓を開けば五月雨に ぬれても咲ける薔薇の赤花
 
・くれなゐの 牡丹の花の咲きしより 庭の千草は色なかりけり
 
・鉢植えに 二つ咲きたる牡丹の花 くれない深く夏立ちにけり
 
・清水の 音羽の瀧の音高み 涼しくふくる夏の夜半かな
 
・夏の夜の 月の光し清ければ 加茂の河原に人つどひけり

 
【鑑賞】
 
「清水の音羽の滝」「加茂の河原」・・・
 
京都の地名は趣があるので、短歌や俳句に使うと風情が出ます。
 
音羽の滝は涼し気ですし、鴨川の河原には夏は川床(かわどこ)が開かれ、今も夜はにぎわいます。

 
 
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