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夏目漱石の後期の代表作「こころ」は、今もベストセラー本として読まれ続けています。
 
 
330ページ(新潮文庫)ほどの中編作品ですが、久しぶりに一気に読んだら、気分が「どよ~~~ん」としてしまいました。
 
 
食欲がなくなって、ダイエット効果がありそう・・・
こういう所が純文学作品の凄い所だと思うのです。
 
 
今回は、夏目漱石先生の『こころ』を、なるべく簡単に紹介します。

 
 
『こころ』青空文庫
 
 

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『こころ』のあらすじ

 
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『こころ』の概要

 
 
「こころ」は、
「上 先生と私」「中 両親と私」「下 先生と遺書」の3部構成になっています。
 
 
主人公は、「私」。
「私」が「先生」に出会ってからの2人の交流が話の中心です。
 
 
ただし、それは、「上」と「中」だけで、「下」はすべて「先生」から「私」に宛てた「遺書」となっています。
 
 
「下」の遺書は、先生の主に大学時代の回想になるので、時間が「過去」に戻ります。
 
 
それを頭に入れて、読むとよいです。
できれば「上→中→下→上」と、もう1回「上」を読むと、「下」(遺書)を読んで始めて分かる伏線が「上」のあちらこちらに引かれていたと分かります。
 
 
ちなみに、字数は新潮文庫では、
「上」が107ページ
「中」が54ページ
「下」が160ページ
となっています。
 
 
「上」「中」「下」のボリュームが約2:1:3です。
 
 
「下」の遺書に重点が置かれているのがわかります。
びっくりするほど、めっちゃ長い「遺書」です。(*_*)
 
 
夏目先生が言いたいこと、つまり主題は「下」にあります。
 
 
感想文を書くときの中心は、先生の「遺書」
ここをじっくり読んでヒントにしましょう。

 
 

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『こころ』の登場人物

 

 
「私」・・・書生→大学卒業。田舎に両親がいて父親が病気。
「先生」・・・「私」が出会った紳士。親の財産で暮らしている高等遊民。
「先生の奥さん」=遺書(回想)では「お嬢さん」。
「K」・・・「先生」の親友。若いころに亡くなる。

 
 

「上 先生と私」

 

 
夏休みに友人に誘われて鎌倉に海水浴に来ていた書生の私は、そこで1人の紳士と出会います。私は、その人を「先生」と呼ぶようになりました。
 
 
東京に戻ってからも、私は先生の家をたびたび訪れて、交流を深めていきます。
 
 
先生は、美しい奥さんと暮らしています。
しかし、先生にはどこか暗い影があって、人付き合いはほとんどありません。
 
 
親の遺産で暮らす先生は、定職を持たず、毎日書斎で過ごしています。
 
 
先生は、毎月、1人で雑司ヶ谷の墓地に行きます。それに同行した私は、ますます先生に興味を持ちます。
 
 
大学入学後も先生と交流を続けた私は、次第に先生が人を信用していないことに気づきます。
 
 
奥さんと話をすると、奥さんもそんな先生がよくわからないとのことでした。ただ、大学時代に先生の親友が急死した事件があって、そのころから急に変わったかもしれないと感じているようです。
 
 
あるとき、先生は、「恋は罪悪ですよ。」と強い語調で私に言い、またあるときは、「人はいざという際に、急に悪人に変わるから恐ろしい」と話すことがありました。
 
 
冬になって、重病の父の見舞いのために帰省した私は、正月過ぎにまた東京に戻ります。
 
 
先生の過去に何かがあると思った私は、先生に問いだたしますが、先生は何も語らず、「時期が来たら話す」と約束してくれただけでした。

 
 

「中 両親と私」

 

大学を卒業した私は、卒業証書を持って再び故郷に帰ります。
 
 
病床にある父は、就職の心配をしますが、私は乗り気ではありません。
「先生に就職口を斡旋してもらったらどうか」と親に言われ、人付き合いの少ない先生に期待することは難しいと思いながらも、しぶしぶ私は、先生に手紙を書きます。
 
 
明治天皇崩御の報道がなされ、元気をなくした父親は、私が再び東京に行く予定の2日前に危篤に陥ります。
 
 
家族や親戚が集められる中、私に先生からの手紙が届きます。
 
 
「この手紙があなたの手に落ちる頃には、私はもうこの世には居ないでしょう。とくに死んでいるでしょう。」
 
 
私は、慌てて汽車に飛び乗り東京に向かいます。

 
 

「下 先生の遺書」

 
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「下」はすべて先生の遺書の内容です。
「手紙」といいますが、文庫本160ページ、短編を超える長さの文章です。
 
 
こんなのが、「遺書」としてどっさり送られてきたら、「私」でなくとも飛んでいきますね。(@_@;)
 
 
ここからは、先生の「遺書」です。
↓  ↓  ↓
20歳になる前に両親を亡くした先生は、信頼していた叔父に財産を横領されてしまいます。それ以降、人を信じられなくなった先生は、親類と絶縁し、故郷を捨てて上京しました。
 
 
「人はいざという際に急に悪人に変わるから恐ろしい」の伏線回収です。
(これは、後に先生がKにした仕打ちについても言える言葉です。)
 
 
その後、書生だった先生は、下宿先の奥さんとお嬢さんと心を通わせ、彼女たちの優しさに心を癒されていきます。
 
 
「奥さん」は今の妻の母、「お嬢さん」は今の先生の妻(奥さん)のことです。先生は、優しく美しいお嬢さんに恋をします。
 
 
先生には、親から勘当されて経済的に困っていて、神経を病んでいる親友の「K」がいました。
 
 
先生は、Kを下宿先に同居させ、奥さんとお嬢さんにもできるだけKと話をしてくれるように頼みます。
 
 
Kは次第に回復していき、お嬢さんとも親しくなっていきます。
 
 
そして、Kとお嬢さんが楽しそうに一緒にいる姿を見るたび、以前からお嬢さんに恋をしていた先生は、嫉妬に苦しむようになります。
 
 
ある日、Kからお嬢さんへの愛を打ち明けられた先生は、嫉妬心から「精神的に向上心のない者は馬鹿だ」(←有名な名言です)と、以前Kが先生に言った言葉を口にして、Kを傷つけます。Kはお寺の息子で、ストイックで真面目な人でした。
 
 
そして、先生は、Kを出し抜いて、奥さんに「お嬢さんをください。」と申し出、結婚の許しを得たのです。その後、先生は、お嬢さんとのことを、Kになかなか言い出せない状態でした。
 
 
それからしばらくして、Kは奥さんから、先生とお嬢さんの結婚が決まったことを聞きます。
 
 
先生は、自分が言う前にKが知ってしまったことに焦り、Kに何か言わなければと思いつつ、2日が過ぎます。
 
 
そして、明日こそは話そうと思っていたその日の夜、Kは自殺してしまいます。
 
 
残されたKの遺書には、先生に対する恨みは一切書かれておらず、先生は安堵しました。
 
 
その後、先生は、お嬢さんと結婚しましたが、Kとのことを、誰にも話すことはなく、常に罪の意識にさいなまれて生きてきたといいます。
 
 
先生は、叔父が自分を欺いたとき、人を信用できなくなったけれど、自分はそんな人間ではないと思っていた、でも、この事件で、自分も叔父と同じだと意識したとき、自分自身にも愛想をつかしてしまったのだといいます。
 
 
そして、乃木大将の殉死を機に、自殺を決意したのです。
 
 
先生は、この自分の過去を「善悪ともに他(ひと)の参考に供するつもり」と書いています。
 
 
しかし、「妻が生きている間は、あなた限りに打ち明けられた秘密として、凡てを腹の中にしまって置いて下さい。」
 
 
手紙の最後は、この言葉で締めくくられています。

 
 

おわりに

 
『こころ』は、漱石の後期三部作の終曲をなす作品です。
 
 
夏目漱石の生涯と「三部作」は、こちらです♪

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優れた文学作品は、人によって、またその読む時期によって、感想や心に残るポイントが変わります。
 
 
「こころ」は、人間には良心で抑えきれない「エゴ」があるということと、その問題を追及しようとした「明治の世代」の典型が行きついた先を示しています。
 
 
感想のポイントは長くなるので、こちらに書きました。(*’▽’)

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「こころ」という言葉が、小説内のキーワードとして、一切使われていないのも興味深いところですね。
 
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