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こんにちは、このかです。
 
江戸川乱歩の問題作『芋虫』。
 
 
乱歩先生の「エログロナンセンスの極致」を楽しみたい方におすすめの作品です。
 
 
伏字だらけで出版され、今だに出版社によってはそのまま出版されている奇妙な作品ですよ。
 
 
「新潮文庫」は伏字なしなので、伏字のところを読み比べてみると、「伏せる意味がどこにあるの?」と思えておもしろいです。
 
 
プロレタリア文学が盛んだった時代に書かれたので、反戦・軍国主義批判とみなされた箇所が伏字になっているはずですけど。
 
 
江戸川乱歩は「戦争」など何の問題にもしていませんが、なぜか左翼からは称賛され右翼からは批判されたらしいです。
 
 
うっとおしいかったでしょうね・・・
 
 
さらっとストレスなく伏字なしで読みたい人には「新潮文庫」をおすすめします。
 
 
江戸川乱歩の短編は、何度も紹介しているこの1冊で決まりですよ。
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『芋虫』あらすじ


反戦よりも、手足がなくなった人間を「黄色い芋虫」と表現するほうが今となっては問題なのではと思いますが・・・
 
 
そう、「芋虫」とは物語の登場人物を「姿」を示唆したもので、この作品は、戦争で両手両足をなくした兵とその妻とのお話です。
 
 
はっきり言って、気持ち悪い話ですよ。(-“-)

 
 

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両手両足・聴覚・言葉を失った人間

 

 
戦争で負傷した須永中尉は、かろうじて命は助かったものの、四肢の全てを失い、耳も聞こえず口もきけない不自由な体になってしまいました。
 
 
彼に残された感覚は、「視覚」「触覚」のみになったのです。
 
 
そんな「人間だかなんだかわからないような廃兵」には、彼の帰還を待つ30歳の妻・時子がいました。
 
 
中尉は目や表情で感情を示す、口に鉛筆をくわえてカタカナを書く以外に、自分の意思を伝えることができない「不自由な肉塊」となり、その姿はまるで「大きな黄色い芋虫」のようでした。
  
 
2人は夫の上官だった鷲尾老少将の好意に甘えて、少将の邸宅の離れの座敷に無償で住まわせてもらえることになりました。

 
 

介護で目覚めた妻の残虐性

 

 
鷲尾少将は、会うたびに時子の介護ぶりをほめてくれました。時子は、始めはそれを誇らしく感じたものの、次第にそれが責め言葉のように感じられるようになっていったのです。
 
 
なぜなら、時子は夫の介護を続けるうちに、夫を自分の情欲を満たすために飼っているだけの「けだもの」、または一種の「道具」のようなものとみている自分に気づいたからです。
 
 
夫は不自由な体なのに、「食欲」と「情欲」だけは人一倍旺盛な健康体でした。
 
 
そして、以前教え込まれた「軍隊の倫理観」(理性)と「敏感な情欲」(本能)が彼の中で矛盾し、それに苦悶しているようにも見えました。
 
 
時子はそのことに気づき、この憐れな「物」を勝手気ままにイジメてやろうという弱い者いじめの嗜好を持って、彼をいたわるどころか、情欲のままに迫って物のように扱うようになります。
 
 
夫が帰ってきた当初は、四肢の代償として「金鵄勲章」が授けられ、新聞にも武勲が載り、親戚や町内の人々がひっきりなしにお見舞いに訪れました。
 
 
しかし、やがて3年も経つと、夫のことなど世間の人々はすっかり忘れ去り、彼ら2人は「世間から切り離されたように、田舎の一軒家でポッツリと生存していた」のでした。

 
 

ついに介護虐待に発展か?

 

 
ある夜、時子は悪夢を見て目が覚めました。夫が廃人になってからの、いろんなことが思い出されます。
 
 
夫が天井の一点を見据えていたりすると、その物思いに耽っている様子がひどく憎々しく思われて、いつもの残虐性が彼女の内に湧き起こってくるのでした。
 
 
彼女は自分の激情が抑えられなくなり、湧き上がる兇暴な欲望のまま、夫の上に飛びかかっていきました。夫は叱責のまなざしで彼女を睨みつけ、刺すような目で彼女を見据えました。
 
 
時子は「なんだい、こんな眼」と叫んで、両手を夫の目にあてがいました。そして、病的な興奮とともにその手に無意識の力を加えたのです。
 
 
夫は彼女の下で踊り狂い、その両目から真っ赤な血が噴き出しました。
 
 
自分は、夫の純粋さを感じる「物言う両眼」が邪魔だったのだろうか、それとも夫を「ほんとうの生きた屍」にしたかったのだろうか・・・
 
 
そんなことを考えながら、時子は医者の家へと走りました。

 
 

憐れな「芋虫」の最期

 

 
医者の治療が終わり帰った後、時子は静かになった夫の胸をさすって、泣きながら「すみません」と謝り続け、胸元に「ユルシテ」と幾度も幾度も書きました。
 
 
しばらくして、夫の様子がかなり落ち着いてきたころ、時子は、再び胸に「ユルシテ」と書きましたが、夫は一向に身動きせず表情も変えませんでした。
 
 
時子は取り返しのつかぬことをしてしまったとワッと泣き出し、ただ人が見たくて、「世の常の姿を備えた人間」が見たくて、鷲尾少将のいる母屋に走りました。
 
 
少将に懺悔し、ともに夫のいる部屋へ戻ると、そこには誰もいませんでした。そして、時子は夫が寝ていた枕もとの柱に「ユルス」と書かれているのを見つけます。
 
 
時子は、夫が自殺する気なのだと悟りました。それで、鷲尾家の召使いたちも呼び、皆で夫を探しました。
 
 
夫の「ユルス」という言葉には、「私は死ぬ、けれど、お前の行為に立腹してではないのだよ、安心おし」という意味が込められていました。それがいっそう彼女の胸を痛くしたのです。
 
 
もう辺りは、暗くなっていました。時子と鷲尾少将が庭の「古井戸」に近づくと、何かが這うようなかすかな音が聞こえてきました。
 
 
そして、夫が胴体の四隅についたコブのような突起物で、もがくように地面を掻きながら前進しているのを見つけたのです。
 
 
それはゆっくり前進していましたが、突然、鎌首がガクンと下がり、からだ全体がずるずると地面の中へ引き入れられるように、見えなくなりました。そして、地の底から、トボンという鈍い水音が聞こえたのです。
 
 
時子は闇夜に一匹の芋虫が枝の先からまっくろな空間へ、ポトリと底知れず落ちていく光景を心の中に描きました。

 
 

おわりに


30ページほどの短編なのですが、半端ないキモチワルサを感じる作品ですよ。
 
 
文庫の解説に「グロテスク趣味の極限を代表する佳作」とありますが、乱歩の妻はじめ、身近な女性陣から「気持ちが悪い」「いやらしい」「ごはんがいただけなくなる」とさんざんけなされた素晴らしい(?)作品なのでした。
 
 
この作品は、左翼から称賛されましたが、乱歩は戦争の悲惨さを伝える反戦の意図はないと言い切っています。
 
 
彼は、ただグロテスクな物の中から生まれる芸術性や愛情を表現したかったのではないでしょうか。
 
 
これで感想文を書くというのはすごい感じがしますが、反戦ではなく現代の社会問題「介護問題」と結びつけて考えると深くなるでしょう。
 
 
介護は「一人っきり」ですると煮詰まってしまい、介護者の精神状態がヤバくなると聞きますよ。
 
 
そういえば、娘の担任の女性教師が、この3月をもって介護辞職したそうです。まだ30代の先生なのですけど。
 
 
意外と身近な問題なのかもしれませんね。
 
 
江戸川乱歩の短編は、何度も紹介しているこの1冊がおススメ。

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