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日本の推理小説作家と言えば、江戸川乱歩を外せません。
 
 
探偵物というジャンルを確立したともいえる江戸川乱歩の初期の作品は、ミステリー仕立てで面白いです。
 
 
『屋根裏の散歩者』はそんな作品で、明智小五郎が素人探偵として登場します。
 
 
犯人らしき人と事件の1年前に知り合っていたというところから、犯人調査に乗り出しますよー。

 
 

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郷田三郎・明智小五郎と出会う

 

 
25歳の郷田三郎は、親からの仕送りで生活している、いわゆる高等遊民でした。
 
 
そして、こういう資産家の子供にありがちな「生きる目的がなく夢中になれるものがない」という味気ない毎日を過ごしていました。
 
 
彼は行動力があるので、いろいろやってみたのですが、どんな職業にも興味を持てず、遊びも酒も女も夢中で楽しむことはできなかったのでした。
 
 
そんな彼が、ある喫茶店で素人探偵・明智小五郎に出会います。(たまたま共通の知り合いが居合わせたため)
 
 
明智小五郎から猟奇犯罪者に関することをいろいろ聞くうちに、三郎はのめり込むようにそれに魅力を感じるようになりました。
 
 
お金持ちらしい通行人を尾行したり、脅迫めいた暗号文を公園のベンチの板の間にはさみ込んで、誰かがそれを発見するのを木陰から見張ったり、女装して街歩きをするなど、犯罪もどきのことをしては楽しむようになったのでした。
 
 
でも、やがて三郎は、それだけでは物足りなくなってしまったのです。このような遊びには「危険」が伴わないからでした。

 
 

天井裏から住民の秘密をのぞき見する魅力

 

 
三郎は引っ越し魔でもあったので、あるとき「東栄館」という新築の下宿屋に引っ越しました。
 
 
その下宿屋はまだ、新築でピカピカなので、彼は押し入れの上段に布団を敷いたままその狭い空間で寝てみました。ドラえもんみたいですね。
 
 
灯りを消して真っ暗にすると、天井のすき間から光が漏れています。
 
 
天井板を押してみると、パコパコと持ち上がりました。その上には漬物石のような石で重しをされていただけで、それをのけると天井裏へ上がることができたのです。
 
 
新しい建物なので、天井裏も虫やほこりの心配がなくきれいです。彼は、鍾乳洞の内部を見るような快感を覚え、屋根裏をうろつきました。
 
 
そして、好奇心の赴くまま屋根裏を散歩し、他の住人の部屋の上にいって、その天井のすき間や節穴から住人の秘密をのぞき見するようになったのです。
 
 
屋根裏からのぞき見することで、そこの住民の滑稽な、悲惨な、あるいはものすごい光景をたくさん見た三郎は、下宿人同士の関係もいろいろ知るようになりました。

 
 

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犯罪に魅せられた男

 

 
ある日、虫の好かない歯医者の助手・遠藤の部屋を天井裏からのぞくと、遠藤は鼻の病気があるため、大口を開けていびきをかいていました。
 
 
そのとき、三郎は恐ろしい考えを思いついたのです。
 
 
そう、遠藤を殺害するという完全犯罪ができるのではないかと、ひらめいたのでした。考えるとできそうな気がしてきたのです。
 
 
なぜなら、前に遠藤の部屋で酒を飲みかわしたとき、遠藤が致死量だといって「モルヒネのビン」を見せたことがあったのです。犯罪に使う毒薬は、遠藤自身が持っているのです。
 
 
4、5日後の夜、遠藤の部屋へ行って談笑していた三郎は、遠藤が便所へ行ったすきに「モルヒネのビン」を盗み出すことに成功しました。
 
 
そして、自分の部屋に戻って、砂糖などと調合しながら殺人の準備に取り掛かったのでした。

 
 

郷田三郎・犯罪を決行

 

 
それからしばらくしたある夜、三郎が遠藤の部屋の天井の節穴から下をのぞくと、遠藤はまた大口を開けていびきをかいて眠っていました。
 
 
猿股のひもで確かめて大丈夫と確認し、三郎はポケットからビンを取り出してモルヒネを10数滴、遠藤の口の中に落としました。
 
 
遠藤は、目を見開いてまっ赤になって玉の汗をかき、やがて顔色が白くなったかと思うと青藍色に変色し、グッタリして動かなくなりました。
 
 
その一部始終を見ていた三郎は、人殺しなんてこんなあっけないものなのだとがっかりし、また、とうとう殺人を犯してしまったと怖くなったのです。
 
 
翌日のお昼頃、三郎が下宿に戻ると、警察の臨検も終わっていて、遠藤の死は失恋による自殺と断定されていました。完全犯罪成立です!

 
 

明智小五郎・登場!

 

 
それから3日後、三郎のもとに明智小五郎がひょっこり訪ねて来ました。
 
 
明智は事件のことを尋ね、現場を見たいと言い出しました。三郎が案内すると、明智は部屋を隅々まで調べました。確かに密室です。
 
 
でも、そこにまだ置いてあった目覚まし時計が遠藤の死んだ朝も鳴ったことを確認して明智は去っていきました。
 
 
半月ほどたったある夜、三郎が部屋へ戻って押し入れの襖を開くと、そこに死んだ遠藤の首があり、さかさまにぶら下がって笑っていたのです。
 
 
三郎は、びっくり仰天しました!
飛び上がって逃げようと思ったそのとき、明智小五郎の声が聴こえました。
 
 
「郷田君。郷田君」
「僕だよ、失敬失敬」
 
 
三郎を驚かせたところで、明智はこう言いました。
 
 
「早速だが、これは君のシャツのボタンだろうね。」と、天井裏に落ちていた三郎のボタンを、証拠として突きつけたのです。
 
 
「君が殺したのではないかね。遠藤君は」
 
 
明智は無邪気にニコニコしながら、三郎のやり場に困った目の中をのぞき込んで、とどめを刺すように言うのでした。
 
 
明智は「僕は警察へ訴えやしないよ」と言います。
 
 
なぜなら証拠がないから・・・
「?」
 
 
明智が犯人が三郎だと気づいたのは、もともと彼が犯罪に憧れていたのを知っていたこと、遠藤が次の日の朝もいつもどおり目覚まし時計をセットしていたこと、几帳面な遠藤が毒薬のビンをタバコの箱の上にこぼしていたことなどから推測したものだったのです。
 
 
さっき出したシャツのボタンは、この前会ったときに取れてることに気づき、ボタン屋で仕入れておいた明智の罠(トリック)でした。
 
 
かくして、明智小五郎完全犯罪を見抜き、かまをかけて犯人に自供させることに成功したのです。

 
 

おわりに


この作品は、つめが甘く、モルヒネの量が致死量に足りない、そんなにうまく口の中に毒薬が入るものかと、当時、批判を受けたそうです。
 
 
江戸川乱歩は自分の作品の批評をすごく気にする人で、あまり批判されると雲隠れするタイプなので、大変だったかもしれません。(・_・;)
 
 
でも、郷田三郎ののぞき見趣味や犯罪に憧れる変態さが、乱歩らしくて素敵な作品です。
 
 
短い作品なので、是非どうぞ♪
明智小五郎がまだ若くて、初々しくてかっこいいですよ。
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『屋根裏の散歩者』青空文庫

 
 
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