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こんにちは、このかです。
 
娘が成長すると、改めて「女性の生き方・働き方」について考えさせられます。
 
 
娘の将来は、もちろん母として応援しますが、自分軸で生きたい私は、まだまだ生きている限り自分にも可能性があると思うのです。
 
 
女性の一生は、子供が独立するときに一つの大きな区切りを迎えます。今は、それに向かって準備をする時期だと思っています。
 
 
「仕事」と一言で言っても、いろんなものがありますね。「仕事」と「労働」、この2つは同じようで実は異なるんですよ。
 
 
多くの文学者や思想家がその違いについて書いていますが、私が真っ先に思い浮かぶのは、宮沢賢治の『なめとこ山の熊』です。
 
 
すごく短いお話なので、あらすじを説明するより読んだ方が早いですよ。
  
 
無料ですので、興味がある方はご一読を♪➾青空文庫『なめとこ山の熊』
 
 
『なめとこ山の熊』には、熊捕り(狩猟)をなりわいとする主人公・小十郎の仕事をとおして、【仕事】に対する賢治の思想が込められています。

 
 

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「仕事」は使命感を持ってする尊いもの

 

 
「なめとこ山」に住む小十郎の「仕事」は、熊捕りです。「マタギ」と呼ばれる職業でしょう。小十郎が山刀と鉄砲を持って大きな熊をしとめる姿は、ヒーローのようにかっこいいです。
 
 
「熊。おれはてまへを憎くて殺したのでねえんだぞ。」
 
 
彼の天敵である熊たちも、実のところ、そのように言う小十郎の事が好きなのでした。
 
 
狩猟は、まさしく小十郎の天職でした。「熊捕り」こそ小十郎の使命、【仕事】だったのです。
 
 
彼はその【仕事】に美学を持っていて、熊に対して、常に真摯な態度をとり続けます。
 
 
人は自分の本当にするべきこと、これをやるために生まれてきたのだと思える【仕事】に従事できたとき、小十郎のように輝けるのだと思います。
 
 
そして、小十郎と熊の関係は、狩るものと狩られるものでありながら、お互いを認め合った崇高さすら感じる関係でした。

 
 

「労働」は生活するお金を得る手段

 

 
その後、小十郎は町に下りて、先程しとめた熊の「皮と胆」を、お店の人に買い取ってもらいます。
 
 
小十郎にはたくさん家族がいて、稼ぎ手は小十郎だけです。彼は、米などの食料を買うための「お金」が必要なのです。
 
 
お金を得るために熊の「皮と胆」を売りに行く事は、 本当はしたくないけれど、お金を得るためにしなければならないことでした。小十郎は、お店の人に買いたたかれても、とにかく頭を下げてお願いします。
 
 
ここには、資本主義経済の原理が働いています。
お店の主人は資本家で、小十郎は労働者です。
 
 
店の主人は、小十郎がどうしても売りたいと思っている事を知っているので、偉そうな態度をとり、足元を見て安く買いたたきます。
 
 
小十郎は、命がけで仕留めた「熊の皮と胆」が2円にしかならないと言われても、売るしかありません。さらに、小十郎は、はいつくばって繰り返しお礼を言いました。そんな小十郎を見て、店の主人は満足げでした。
 
 
小十郎と命のやり取りをした熊は、町に持っていくと、たった2円の価値しかないただの「物」になってしまうのです。そして、大きな熊と対峙した小十郎は、町ではただの貧しい哀れな労働者でしかなかったのです。
 
 
「なめとこ山」にいるときの堂々とした小十郎とは全く違う「町の」小十郎の卑屈な姿を見て、宮沢賢治が思わず「語り手」として言葉を差しはさんでいます。
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「僕はしばらくの間でもあんな立派な小十郎が、二度とつらもみたくないやうないやなやつに、うまくやられることを書いたのが、実にしゃくにさわってたまらない・・・」
 
 
自分で書いてるのに、腹が立っていますよ・・・。

 
 

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賢治の言う「仕事」と「労働」の違いに納得

 

 
小十郎の2つの行動を、宮沢賢治が対照的に描いた理由を考えたいと思います。
 
 
「猟師の小十郎が、熊を捕ってそれを町の店に売りに行く」、これは一連の仕事のようで、全く違う2つの行為が含まれています。
 
 
・熊を捕るのは、小十郎の【仕事】
・町の店に熊の「皮と胆」を買い取ってもらうのは【労働】

 
 
宮沢賢治は、【仕事】と【労働】をはっきり区別しています。
 
 
彼の代表作の1つ『農民芸術概論綱要』の中にも、「今われらにはただ労働があるばかりである」という嘆きの言葉を残していますよ。
 
 
賢治は、ただ生活する目的のためにお金を得る【労働】をするのではなく、自分が生まれてきた使命を意識して、それを【仕事】にすべきだと言いたいのです。
 
 
彼だけでなく他の思想家たちも、似たような言葉を残していますよ。例えば、吉田松陰も、同じようなことを弟子たちに伝えています。
 
 
私も、これから何かをするなら、手早くお金を稼ぐためでなく、それが自分の生きがいになり、同時に誰かのためになる【仕事】をしたいと思います。

 
 

「理想」と「現実」の間で悩むのが人間

 

 
宮沢賢治の作品、特に晩年の作品には「まこと」「ほんとう」という言葉が強調されています。
 
 
「ほんとうのさいわいは一体何だろう」
「ぼくわからない」
(引用元:『銀河鉄道の夜』)
 
 
ほんとうのさいわい
ほんとうのいいこと
 
 
自分がこの世に生を受けた「ほんとう」の理由・使命・・・
みんなのさいわいにつながる「まこと」の道・・・
 
 
人は「ほんとう」の道を求めずにはいられないのに、現実は、生活のために手っ取り早くお金を稼げる労働に時間を奪われがちですね。
 
 
自分が今しているのが「仕事」なのか「労働」なのか、じっくり考えてみるのも大切だなと思うのでした。
 
 
 
こちらの新潮文庫の「注文の多い料理店」には、表題作のほかに「雪渡り」「茨海小学校」「なめとこ山の熊」など19編の作品が収録されています。

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by カエレバ

 
 
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