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古代より、日本には八百万(やおよろず)の神様がいます。
 
 
山や川など自然の神様、動物の神様、高天原の神々、異国からやって来た神々、いろんなグループの神様がいます。そんな神様たちが、物語の中に登場することも多いですね。
 
 
スタジオジブリの「もののけ姫」に登場する神様は、自然を象徴する神様です。これ、凄く日本的な発想だと思いませんか。
 
 
物語の鍵となる、かなり謎の多い「シシ神」
 
 
あれを見ていると、人の感情や理性で、神様の行動を理解するなんてできないんだよと言われているように感じます。
 
 
今回は、「もののけ姫」を見て感じた、宮崎駿監督と日本人の自然神崇拝について、お伝えします。

 
 

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そもそも「シシ」とは何を指すの?

 

 
「もののけ姫」の中には、いくつかの神が出てきますが、「シシ神」は、特別な神様です。
 
 
でも、そもそも「シシ」って何なのでしょうね。
 
 
イノシシ?とかライオン(獅子)?とか連想できますが、「シシ神」の見た目は、全然違います。
 
 
全体のシルエットは、鹿に近いけれど、真っ赤な目が肉食動物のように真正面についています。人間っぽい表情に見えるのは、そのせいでしょう。そして、ほっぺたには緑色のシマ模様が入り、脚は鳥類のようで、3つの蹄があります。まるで、キメラのようですね。
 
 
「シシ」については、ジコ坊が、アシタカが乗ってきた「ヤックル」(東北地方のカモシカ)のことを「アカシシ」と呼んでいます。また、エボシ御前も、「見慣れぬシシに乗ってきた」と言っています。
 
 
では、鹿が「シシ」なのかというと、それだけでもないようです。
 
 
古語の「しし」という日本語は、肉食になる獣、とりわけ、イノシシと鹿を指す言葉でした。「しし肉」といえば、今も食肉用のイノシシの肉を指しますね。
 
 
なので、「シシ」は、主に鹿やイノシシを、食用の動物として捉えた言葉と考えられます。
 
 
では、「シシ神」は、動物たちの神様なのでしょうか?

 
 

「シシ神」は「自然界を象徴する存在」

 
 
「シシ神」は登場した時から最後まで、一貫して理解できない超越した存在として描かれています。
 
 
もしも、このストーリーが単純な「自然を破壊する人間VS自然(動物たち)」だったとしたら、シシ神の行動は変わっていたでしょう。もっと分かりやすかったと思います。
 
 
でも、この作品の「シシ神」は、「自然を破壊する人間」のアシタカの命を救い、「シシ神の森を守る」乙事主(おっことぬし)や、モロの命を奪い去っています。
 
 
ただ命を奪い、また与える神。「シシ神」は、生死という生き物の営みの枠外にいる存在です。
 
 
生と死を司る神「シシ神」は、あくまで人間の世界も動物の世界も超越した存在・自然を象徴する存在なのです。
 
 
そう思って見ると、「シシ神」の行動は、非条理な自然そのものと、納得できるのです。
 
 
サンはシシ神様は死んでしまったと言いましたが、私はそうではないと思います。
 
 
森は、再生していますから。
 
 
でも、その再生した自然は、夜になるとディダラボッチが闊歩する、それまでのような「畏怖すべき自然」では、なくなったかもしれません。

 
 

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宮崎駿の「自然神礼賛」

 

 
宮崎駿の作品には、「風の谷のナウシカ」や「となりのトトロ」など他の作品にも共通する「自然神礼賛」というテーマがあります。
 
 
これは、私たち日本人が、もう魂レベルで共感できるものだと思います。それは、今までのジブリ人気が物語っているでしょう。
 
 
自然を破壊する人を批判しているけれど、「絶対悪」だと決めつけない、そこには、それぞれに立場や考え方があるのだと理解できる寛容な心があります。
 
 
エボシ御前は「悪」ではなく、彼女の「正義」を貫いたのです。
 
 
彼女は、矛盾を含みながらも文明の力を用いて、女性や差別されている人々に自由を与え、豊かさをもたらすことを目指しました。
 
 
一方、動物(もののけ)たちも、みんなが仲間なのではなく、捕食関係にあったり敵対したりしています。
 
 
そして、サンは、中途半端な存在です。
 
 
全てがきれいに「善」と「悪」に割り切れない、「善悪二元論」で語りきれない世界、現実世界は、まさにこのとおりで、日本人にはそれを心から理解できる素地があります。
 
 
一神教でない国、自然を畏れ敬う民、多様な価値観を認められるというのは、実は、すごくグローバルな意識ではないかと思うのです。
 
 
そして、「もののけ姫」の中で、アシタカが言う「自然との共存」は、日本人が、近代主義の思想が入ってくるまで、あたりまえのように営んでいたことです。
 
 
これこそが、日本的自然観の源泉ですね。
 
 
私は、ここ数年のジブリ作品には、以前の作品のような魅力は、残念ながら感じられません。
 
 
また、どなたかこのような日本人の魂を描き出す作品を、作ってほしいと思います。

 

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