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こんにちは。
宮沢賢治の作品は不思議系ばかりでなく、社会の問題や人の生き方を童話という形で取り上げたものもたくさんあります。
今回お伝えする「猫の事務所「もその1つです。
タイトルを見ると、猫が何かの事務所を開いているかわいらしい雰囲気にもとれますね。
でも、この話は「かま猫」という猫が職場でみんないじめられる哀しいお話なのです。
人間の「宿命」や「性(さが)」はどうしようもないと、突きつけられる作品ですよ。
目次
「猫の事務所」のあらすじ(思いっきりネタバレ)
『猫の事務所』は、たった14ページの短いお話です。
(「新編 銀河鉄道の夜」新潮文庫)
(1)猫の事務所のイメージは公務員の職場?
猫の第六事務所は、多くの猫がそこで仕事をしたいと思う人気の職場でした。
そこで働いているのは、黒猫の事務所長と4人の書記たちです。
第一書記は白猫、第二書記は虎猫、第三書記は三毛猫でした。そして、第四書記は竃猫(かま猫)です。
かま猫というのは、他の猫のような色による種別ではありません。
かま猫は生まれつき皮が薄かったので、寒くて夜にかまどの中で眠る癖がついている猫なのです。ですから、いつも煤(すす)だらけで汚いのでした。
でも、かま猫は優秀でした。それで余計に他の書記たちから、嫉妬され嫌われていたのです。
かま猫はなんとかみんなと仲良くしようとがんばりますが、うまくいきません。でも、事務所長だけはかま猫に好意的で、かばってくれました。
でも、悲しいことにその事務所長も、あてにならなくなったのです。
(1)職場のいじめ・無視は地味だがダメージが大きい!
朗読の動画です。12:00ぐらいから聞くと、お判りいただけます。
あるとき、かま猫は風邪を引いて、1日仕事を休んでしまいました。そのとき、3人の書記が事務所長にかま猫のあらぬ悪口を吹き込んだのです。事務所長は、彼らの言ったウソを信じてしまいました。
次の日、かま猫が事務所に行くと、みんなの態度が一変していました。
かま猫ががんばって作った「原簿」は白猫の手に渡っていて、仕事ができません。そして、みんなに完全に無視されたのです。
お昼過ぎになると、とうとう今まで堪えていたかま猫の目から涙がこぼれました。
かま猫は悲しくて悲しくてしくしく泣きだしますが、みんなは完全に無視して楽しそうに仕事の話をしているのでした。
もおおおおおおっ、かま猫が可哀そうだーーーーー!!!!!
小さな組織内で完全にシカトされるって、想像しただけでも辛いですよ。自分の存在を、消されるようなものです。
「お前なんか、いなくてもいい」
「お前がいなくても、仕事にはなんの支障もきたさない」
そう言われているようなものです。
人間の本質、残酷さが、見事に風刺されています。
3人の書記はかま猫が嫌いで、かま猫の仕事を奪いたいと思っていたし、事務所長はもともと悪い人ではないものの、考えが浅くて短絡的です。
そして、この残酷さは、間違いなく人間の本性なのです。怖ろしいです。
かま猫は、それから晩方まで一人で泣いたり泣き止んだりを繰り返してしましたが、みんなは素知らぬ顔で、おもしろそうに仕事を続けていました。
一日中、無視する気ですよ、この人たち・・・
ここで、ラスボス・獅子の登場です!
事務所の様子をコッソリ見ていた獅子は激怒し、「解散を命ずる!」と一喝したのです。そして、最後の一行に行きつきます。
「ぼくは半分獅子に同感です。」
「半分同感」に差別・いじめ問題の難しさが見える
この話は、職場での差別といじめ、パワハラがテーマです。
100年も前に書かれたとは思えないほど、現代的な感じがしますねー。かま猫と「同じ涙」を流している人は、今でもたくさんいると思います。
人間の本質は、変わらないということですね。
でも、かま猫がかま猫なのは、彼のせいではありません。変えることのできない「宿命」「業」なのです。
差別の原因がそこにあるなら、この事務所が廃止になっても、かま猫の「業」は、彼が生きている限り続きますね。
そして、彼は職を失いました。
獅子のしたことは正義だけれど、問題の根本的な解決にはなっていません。
だから、半分だけ同感なのかなと思います。
この最後の一行が、すごく宮沢賢治らしいと思います。
童話だからといって安易にハッピーエンドにはしない、人間の問題はそんなきれい事では済まないから・・・
だから、私たちは、こういう話を読んで、いろいろ考えることが大切なのだと思います。
自分が「かま猫」だったり、身近に「かま猫」がいたりする人は、たくさんいると思いますから。
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